選挙公報

投稿: 2007年4月5日

YOMIURI ONLINEに、「障害者に冷たい選挙公報、完全点訳6都県だけ」という記事を見つけた。記事によると、現在知事選挙が行われている 13都道県の中で、選挙公報を点字でもテープでも提供していないのは三重、省略版を点訳して提供しているのは北海道、岩手、福井、鳥取、島根、徳島、省略なく点訳したものを提供しているのは東京、神奈川、奈良、福岡、佐賀、大分、そしてこのうち神奈川と佐賀は音訳版も提供しているそうだ。総務省は、今回の統一地方選に関して、点字による選挙公報を用意するのが望ましいという通知を出したのだそうだが、これは拘束力のない単なる通知だということだ。この記事を読んでいくつかの事を考えた。

まず、その方法はどうであれ、障害の有無にかかわらず、選挙公報の内容は全ての人に正確に伝えられるべきであるということだ。コストや時間的な制約があって決して簡単なことではないと思うが、全ての選挙において、点字版、テープ版の選挙公報が作成されるようになって欲しいと感じる。

次に、現在点字版、テープ版の選挙公報が配布されている場合でも、実際には十分だとは言えない状況ではないかという疑問を感じる。視覚障害者の中には点字を読めない人も少なからずいる。正確な数は分からないのだが、高齢になってから失明した人の場合などには、点字の習得は困難だとされている。 (若くして中途失明した場合でも、決して容易ではないと思う。) 特に糖尿病が原因で失明した場合には、指先の感覚が麻痺していて、点字の習得はきわめて難しいということも聴いたことがある。 (僕のアメリカ人の友人がこのケースに当たり、彼によればアメリカにはこういう視覚障害者が多いそうだ。) したがって、テープ版の選挙公報の提供も重要な意味を持ってくる。

しかし、こうして作成された点字版、テープ版の選挙公報が、それを必要としている人の手に渡っているのかという点が次に感じる疑問である。僕は東京都にかれこれ 15年ばかり有権者として暮らしているのだが、点字版の選挙公報を受け取ったことが数えるほどしかない。これは、選管がそもそも誰に点字版を送ればいいか把握する方法がないからだろう。だから、せっかく作った点字版の選挙公報も、それを必要としている人の所へ届いていない可能性が高いのではないかと思うのだ。

ではどうすれば良いのか。少なくとも僕自身だけのことを考えれば、選挙公報が選管の Webサイトで公開されれば全て解決してしまう。僕に限って言えば、点字版もテープ版も必要なくなるのだ。もちろん全ての人がインターネットを使えるわけではないから、引き続き点字版、テープ版は必要なのだが、少なくとも情報を受け取れないという状況におかれる人は随分と減るのではないだろうか。

そう思って、現状を確認すべく東京都選挙管理委員会のサイトを覗いてみた。「都知事選挙立候補者一覧」という PDFファイルは掲載されていたが、この PDFファイル、スクリーンリーダーでは内容を読めないような形式のものなので、これが単なる一覧なのか、選挙公報に相当するものなのかは分からなかった。が、おそらく名前からして単なる一覧なのだろう。このファイルがこのような形式で配布されていることが、公職選挙法の規定など何らかの事情によるものなのかどうかは分からないのだが、少なくとも東京都選管を見る限り、インターネットを用いて情報格差をなくすための取り組みは不十分だと言わざるを得ないだろう。

さて、話を戻して選挙公報だが、ちょっと検索してみたところ、産経のニュースサイト iza!に掲載されている「【統一地方選】厚い「公選法」の壁 「ネットの利点」生かせず」という記事を見つけた。この記事では、インターネットを使った選挙運動に関する現状などについてまとめている。そして、自民党のインターネットを使った選挙運動に関するワーキングチームが昨年 5月にネット上の選挙運動の一部解禁を提言したことについて以下のように伝えている。

自民党は昨年5月、「インターネットを使った選挙運動に関するワーキングチーム」が、ネットによる選挙運動の部分的解禁を提言する最終報告書をまとめたが、一部の国会議員から反対の声が上がった。「誹謗中傷があっても、対策を講じているうちに選挙期間が終わる」「高齢の有権者はネットを使わない」…。

 一方、若い世代の議員は自民も民主も党派に関係なく解禁推進派で「世代間闘争」が起きている。匿名の誹謗中傷に関しても、推進派の議員らは「解禁しても、しなくても発生する。むしろ解禁によりネット情報をきっちり規制するチャンスだ」と主張する。

なんと情けない。自分がインターネットを使えないからと言って、全ての自分と同年代の高齢者がインターネットを使えないとでも思っているのだろうか。そういう世間知らずの老体にはさっさと隠居していただきたい。もちろん使えない人もいるだろう。しかし、それは使いたくなくて使えないのか、使いたいけど使えないのか、使うメリットを知らないから使わないのか、人それぞれである。もしインターネット上で選挙公報が公開されていれば、拡大表示や音声読み上げを使ってこれらの情報にアクセスすることだって可能なわけで、選挙における情報格差をなくすことにつながるのではないだろうか。そして、情報格差がなくなれば、高齢者にとってもより積極的な投票行動が可能になるのではないのか。それともなにか、最近の高齢者や障害者施策が批判されていることをよくご存じの与党の先生方は、高齢者や障害者に積極的に投票されては困るのだろうか。もっとも前述の産経の記事では、若い世代は与野党問わず解禁に賛成だと伝えているので、これはさすがに考えすぎなのかもしれないが。

さらに先の記事では以下のようなコメントも紹介されている。

 ネット社会の動向に詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの庄司昌彦研究員は折衷案を提言する。「まずは、選挙公報やポスターなど、オフィシャルなものだけを選管のサイトに載せる。候補者全員を載せて、有権者は公約などを簡単に比較できる。メールでの選挙運動は最終段階でしょう」

未だにオフィシャルなものすら掲載されていないのは驚きである。以前にも書いたように僕は候補者や政党のマニフェストもインターネット上で公開されるべきだと考えているのだが、選挙公報ですらまだ公開できないのだとすると、マニフェストが公開できるようになるのはまだまだ先のことかもしれない。やはりここは、世直しと思って世間知らずのご老人に身を引いていただくのが良いのではないだろうか。もっともそれですぐに良くなる、なんて考えられるほど僕は今の政治に期待なんかできないけれど。