宮崎 里司: 「外国人力士はなぜ日本語がうまいのか―あなたに役立つ「ことば習得」のコツ」

投稿: 2008年6月8日

友人が教えてくれたこの本を読んでみた。何人かの外国人力士、その親方、女将さん、兄弟子、床山などへのインタビューを通して、なぜ活躍する外国人力士は日本語が上手なのかということを分析している。

分析の内容は、ある意味予想通りといったところで、日本語付けになる彼らの生活が、彼らの日本語上達の要因だとしている。重要な点は、彼らが「日本語を学ぼう」という意識よりも、「しっかりと角界でやっていける人間になろう」という意識を強く持って修行を積んだということだろう。そうすることにより、自然に角界のしきたり、上下関係なども含めて身につき、結果として高いコミュニケーション能力を手にすることができているようなのである。

また、周囲の人々が積極的に、そして辛抱強く力士に言葉を教えているらしい点も見逃せないと感じる。本の中で、アルゼンチン人 2名の弟子を取った陸奥部屋の当時の女将さん、小川のりこ (点字で読んだので漢字は不不明) さんの以下の言葉が紹介されている。

「何回も、何回も、繰り返し、繰り返し。何度も、何度も、あきらめずに教えることかしら。私も途中でいやんなっちゃうことがあるんですが、そうすると向こうもあきらめちゃうんですよ。すぐスペイン語使い出しちゃうし。」

確かに僕が英語をそれなりに話せるようになった時のことを考えると、この本に書かれていることはどれも的確だと感じる。「言葉を学ぼう」ということよりも、「どうにか生活を成り立たせよう」という強い気持ち、周囲の人たちが辛抱強く接してくれたことは特に大きかったと感じるのだ。

僕がこの本を読んでみようと思ったのは、ある程度以上、なかなか日本語が上達しないように見える連れ合いにとって、何かヒントになることがあるのではないかと考えてのことだった。これは読む前から感じていたことではあるのだが、連れ合いには日本語を積極的に使わなければ保てない人的ネットワークはなさそうだし、また僕自身が家であまり日本語を使わないというのが大きな原因なのだ、ということを再認識させられた。やはりそういうネットワークがなければ日本語能力を伸ばそうという強い動機を持つことにつながらないし、僕が日本語を使わなければますますその動機が弱くなってしまう。

現状を考えると決して容易に解決できる問題ではなさそうだ。本にもあるのだが、他人が作った人的ネットワークというのはなかなか長く維持できるものではないから、本人が積極的にネットワーク作りをしなければならないと思うのだが、そのきっかけがつかめないということがある。一方、家の中でもっと日本語を使うようにするというのは、簡単そうで意外に難しい。しかし、そんなことも言ってられないので、できることからやっていくしかないのだろう。

ところでこの本、「英会話学校に通ってても全然しゃべれるようにならないなぁ」という不満を持っておられる方は、ぜひ読んでみると良いと思う。