6dot Braille Labelerに期待

投稿: 2010年4月23日

Twitterで教えてもらったEngadgetの記事で、6dot Braille Labelerという現在開発中の点字ラベル作成機を知った。単三電池で動作して、市販のダイモテープを使い、入力は6点入力だというこのラベラー、現在は試作品ができた段階だが、製品化されれば200ドル程度で販売される見込みだという。このラベラーについて読んでいて、いくつか考えたことを書いてみることにした。

既存の点字ラベラーとの違い

点字のラベルを作成できるラベラーは、僕が知る限り国内では2社から3製品が発売されている。KGSBL-100BL-1000の 2製品とキングジムSR6700Dだ。KGSの製品については海外市場にも投入されているようだが、詳しいことは分からない。また、簡単に検索してみたところ、海外では手動のラベラーは存在するものの、電動のもので個人が使うようなものは見当たらなかった。 (一度に大量の点字ラベルを作るような場合に使えるような製品はあるようだった。)

上記の3製品に共通する特徴は、点字を知らなくてもラベルを作成できるように考えられている点だ。キングジムの製品とKGSの製品のうちのBL-100は、本体にキーボードと液晶画面を備えていて、キーボードから入力した文字を点字に変換する機能が搭載されている。ちなみにKGSのもう一つの製品、BL-1000については、パソコン上で入力内容を編集して、それをパソコンにつないだラベラーに転送することでラベル作成ができるようになっているらしい。どの製品も、入力したデータの点字変換がどれほど正確なのかはよく分からないが、単純な内容ならそれなりに正確であろうと思われる。しかし、あまり一般的でない単語とか記号とかが入った時に、どれほど正確なのかは気にかかる点である。仮に常に正確な変換ができると仮定すると、これは晴眼者が視覚障害者に対して情報を伝える手段を提供しているということになる。また、詳しいことはよく分からないが、BL-1000とSR6700Dについては点字を直接入力するための機能も備えているようだ。

一方、6dot Braille Labelerの場合、6点入力であると前述した通り、点字を直接入力する方式になっている。すなわち、点字を知らなければ利用することができない。既存製品が点字を知らない人が点字ラベルを作ることを念頭に置いているのとは大きな違いだ。また、単三電池で動作し、おそらくは既存製品よりも小型であろうこと、また価格的にも低くなりそうだという点も既存製品との違いだと言えるが、これらは墨字 (普通文字) を入力したりそれを点字に変換するための機能を搭載していないことによるところも大きいのではないだろうか。

点字はいったい誰のためのものなのか?

既存製品が点字を読めない人が点字を読める人に対する情報提供手段を意識して作られているのに対して、6dotは点字使用者が生活の中でより便利に点字ラベルを使えるようにすることだけが意識されているように思う。どちらが良いか、あるいは悪いかという議論をするつもりなど全くないのだが、こういった製品の方が随分後になって出てくるというのは、何だか大きな矛盾のような気がしてならないのだ。点字にしても他の文字にしても、生活の中で使ってこそ役に立つものであって、そして文字を使うというのは言うまでもなく読むことと書くことの両方をすることだ。そして読むことと書くことは同様に容易であるべきだと思うのだが、これまでの製品では、少なくとも点字使用者にとってはそうはなっていなかったのではないかと思うのだ。

というのは、まず本体がそれなりの大きさであることによって、どこへでも持って行ってその場でラベルを作って貼り付けるというような使い方に向かないということが挙げられるだろう。また、KGSの製品については実際に使ってみたことがないので分からないのだが、Web上の説明を読んだ印象では、BL-100では点字の直接入力の機能がなさそうだし、BL-1000は単体では点字の直接入力に限らず、入力ができないようである。キングジムの製品については、本体のみで点字の直接入力が可能だったと思うが、そのモードに変更したりする操作を本体の画面表示を見ずに行うことが簡単ではないという問題があったと記憶している。そのため、現実的にはパソコンに接続して、パソコン上の専用の編集ソフトで入力したものを転送して使う必要があったはずだ。

そして、もし点字のラベルだけを作る目的で購入するのであれば、やはり価格が高すぎる印象は否めない。これは、墨字を点字に変換する機能や、墨字をラベルに印刷する機能など、点字ラベルを作りたいだけのユーザが必要としない機能が搭載されているために感じるものだと思う。安ければオーバースペックの製品で会っても買う気になるが、決して安くないのに不必要な機能がそれなりに搭載されているというのは少々納得のいかないものだろう。もちろん、ターゲット・ユーザを増やすことによる量産効果なども考えてのことだとは思うが。

一方6dotは、点字使用者が自分で使うためのラベルを作ることに特化している。そして上に挙げたような問題を解決している。 (価格については人によって様々な受け止め方があるだろうから、解決していないと感じる人もいるかもしれないが、少なくとも200ドルというのは既存製品よりも安い価格設定だ。) この製品が身近にあれば、点字使用者はもっと気軽に日常生活の中で点字ラベルを活用することができるだろう。

点字ラベルの効用

最近のことは分からないのだが、日本の視覚障害者教育においては点字ラベルの活用ということがあまり触れられない印象が強い。一方、アメリカにおいてはこれが結構重視されていて、日常生活の中で点字ラベルを積極的に活用するように指導されることが多いように思う。確かに、たとえば買い物した直後にはどれが何か分かっている缶詰でも、点字ラベルをつけずに放置しておけば、やがて記憶が曖昧になり、さらに缶詰のストックが増えたりして訳が分からなくなるものだ。ラベルを作るのを面倒がる僕の手元には、点字のラベルがついていないために識別不能になったCDの山があったりもする。 (もっともCDには個人的な好みで今後もラベルはつけないように思うが) 他にも点字ラベルをつけておくだけで、随分と効率的にこなせるようになることはいろいろとあるはずなのだ。

これまで僕が点字ラベルを作るのが面倒だと感じてきた理由は、現状では手書きでラベルを作らなければならず、この作業をとにかく面倒に感じるというのが大きい。しかし、6dotのような製品があれば、この考えは大きく変わるだろう。点字を再び自分の文字として評価し、そして活用するようになるのではないかと思う。

6dotのビジネス的なうまさ

何度も書いたが、6dotは6点入力方式で、墨字を点字に変換する機能はなさそうだ。このことは、製品を売ることを考えると結構大きいように思える。墨字を点字に変換する仕組みを作るということは、すなわち対応原語ごとにソフトウェアの開発が必要になるということだ。6dotではこの開発が必要ないわけだ。また、6dotにはパソコンとの接続機能はなさそうなので、パソコン側で動作するソフトウェアの開発も不要だ。つまり、ハードウェアそのものは、6点方式の点字を使っている国 (たぶん全世界) ならどこでも使えるわけだ。マニュアルや本体に何らかの表示をする場合はその表示内容のローカライズは必要になるが、これはソフトウェア開発に比べれば遙かに低コストだろう。そう考えると、アメリカとカナダで開発されている製品だが、完成すれば世界展開は可能で、うまくすれば量産効果による低価格化すら期待できるかもしれない。点字使用者のための物作りにフォーカスすることが、結果としてビジネスとしてもうまくいく可能性があるものにつながっていることが面白いと感じた。

ともかく、これは製品化、そして発売が楽しみだ。鞄に忍ばせられるような大きさ、重さだったら、持ち歩いてもらった書類やら何やらに片っ端からラベルをつけるような使い方をきっとすることだろう。