選挙とインターネット -- 本質的なことが忘れられているような気がする --

投稿: 2010年5月12日

時事ドットコムに掲載されている記事によると、今夏の参院選からインターネットを使った選挙運動が一部解禁されるそうだ。基本的に悪いことではないのだけれど、このニュースに触れて気になった点がいくつかある。

サービスごとの規制は無意味ではないのか

時事ドットコムの記事には以下のようにある:

時事ドットコム - ネット選挙、一部解禁へ=参院選からHP更新

 民主、自民両党など与野党は4月、HP、電子メール、ブログ、ツイッター(簡易ブログ)のうち、どの範囲まで解禁するか、党内の意見を集約することで合意。これを受け、民主党は所属国会議員のアンケート調査を実施し、回答した約160人の大半がHPの更新解禁に賛成した。

 同党は、ブログについても「実質的にはHPと同じ」として利用解禁を提案する方針だ。 (中略)

 電子メールやツイッターに関しては、アンケートで「誹謗(ひぼう)や中傷を防ぐ手だてが未整備」など慎重論が多かったため、今回は解禁を見送る。 

これを検討している人たちは、ホームページ、ブログ、Twitterという「段階」があるという認識のようだ。感覚的には分からなくもない。ホームページと言えば、一般的には静的なコンテンツを指すことが多く、印刷物の配布やポスターの掲示に近いという印象が持たれていそうだ。ブログも、コメント欄がなければ似たようなものだと考えるのが一般的だと思う。これに対してTwitterはリアル帯リアルタイムなコミュニケーション・チャンネルとなり得る点 (というよりそういう使い方が一般的である点) でホームページやブログとは大きく異なっているという見方が多いのは事実だろう。しかし、技術的に見るとブログもTwitterも、コンテンツがWebページという形で掲載されるという点ではいわゆるホームページと同じだ。違っているのは、「どのような使われ方をすることが多いか」という点だけだ。 (そして別にそういう使い方しかできないわけでも、そういう使い方をしなければならないわけでもない。)

ここには挙げられていない掲示板系のシステムやWiki系のシステムなどはどうなのだろうか。作り方、運用の方法次第ではいわゆるホームページと言えるようなものになり得ると思うのだが、運用方法によってはTwitterと同じような使われ方をするだろう。また、ブログは解禁の方向ということだが、コメント欄の扱いはどうなるのだろうか。これも場合によってはTwitterと変わらないような使われ方になるのではないだろうか。

動画を使ったコンテンツはどうなのだろうか。UstreamはTwitterと連動しているからだめなのだろうか。では動画をホームページに掲載している場合は問題ないのだろうか。

Twitterに関して、「誹謗中傷を防ぐ手立てが未整備」という理由を挙げて解禁しない方向だというが、これもよく分からない。ホームページやブログで書かれていることがTwitter上で取り上げられて、場合によっては誹謗中傷の対象となることもあり得るわけで、候補者がTwitterを利用するかどうかには関係ない話なのではないだろうか。

このように、「ホームページ」、「ブログ」、「Twitter」といった媒体に対するおおざっぱなイメージに基づいて出された方向性だという印象が全体的に強い報道内容になっている。だからサービス単位で解禁とか見送りとかいうことになっているのだと思うが、重要なことは「どのサービス/媒体を使うか/使わないか」ではなく、「どの媒体を『どのように使うか』」という点ではないだろうか。そもそもこれらのサービスについて、具体的に何を指すのかという明確な定義をすることもせずにサービス単位で規制するというのは、実にナンセンスであると感じる。

選挙運動の前にやるべき事があるのではないか

もう一つ気になる点は、この報道だけを見ると、「規制を緩める」ことしか考えられていないように感じられる点だ。規制を緩めることは大いに結構だ。しかし、そもそもなぜ規制を緩めるのかを考えて欲しいと感じる。

インターネットを使った選挙運動の解禁の大きな目的の一つは、有権者に対して候補者に関する情報をより入手しやすくして、投票行動の決定に役立てることができるようにすることだと思う。それならば、選挙公報、各党のマニフェスト、政見放送といったものをいつでも容易に参照できるようにすることも非常に重要だろう。ホームページの利用を解禁することで、こういった情報を掲載することも、さらに選挙期間中に更新することも可能になるはずだ。しかし、可能になったからといって全ての候補者や政党がそうするとは限らないし、選挙公報はそもそも選管が出すものだ。

「有権者への情報提供」という目的を達成するためには、選管には選挙公報のWebへの掲載を、政党にはマニフェストの掲載を義務づけることが必要なのではないだろうか。そのようにして、大きな目的の達成に向かって一つずつ変えていくことが重要だろう。しかし、少なくとも前述の報道からはそういうビジョンがあっての解禁だとはあまり思えないのが残念だ。